点頭てんかんについて

点頭てんかん(ウエスト症候群)とはなんですか?

ウエスト症候群(点頭てんかん)は、「てんかん性スパズム」というてんかん発作と「ヒプスアリスミア」と呼ばれる脳波所見を特徴とし、しばしば精神運動発達の退行(もともとできていたことができなくなる、元気がなくなり笑顔が消える、など)をきたすてんかんです。

主に乳児期から幼児期早期に発症します。10000万出生のうち数人程度が発症します。欧米では「Infantile spasms」という用語が用いられていることが多いですが、「Infantile spasms」は日本では「点頭てんかん」に該当すると考えられています。

ウエスト症候群(点頭てんかん)は「Infantile spasms」の典型的なものであり、「Infantile spasms」はWest症候群とその周辺(「てんかん性スパズムが群発しないもの」、「てんかん性スパズムは群発するがヒプスアリスミアがないもの」など)を含むものと考えられています。厳密には区別できないことも少なくなく、このホームページではウエスト症候群(点頭てんかん)として記載しています。

■点頭てんかんの場合の動きの特徴

一般的には、眠っている様子のまま生じる、動作と動作の間隔がまちまちである、ピクッとする動作は極めて「一瞬」である、ピクっとする動作の際に体が反りかえるなどの場合は点頭発作(てんかん性スパズム)である可能性は低いと考えられています。

一方、点頭発作(てんかん性スパズム)では、眠たい状態の時に生じやすく、動作後に大きく泣いたりする、「しゃっくり」のようにある程度規則的な間隔で生じる、ピクっとする動作の際に頭や体が前傾する、などの特徴があります。

点頭てんかん(ウエスト症候群)の場合速やかな治療が必要で、抗てんかん薬(その組み合わせ)、ACTH治療ケトン食治療てんかん外科(手術)など、種々のてんかん治療を要することが少なくありません。

点頭てんかん(ウエスト症候群)はどのように診断されますか?

ウエスト症候群(点頭てんかん)は、繰り返し生じる“てんかん性スパズム(点頭発作)”との特徴的な脳波所見“ヒプスアリスミア”から診断がなされます。まずは詳しい問診(発作症状の確認)と診察をおこない、その後で脳波検査をはじめとする各種検査を行い確定診断します。

てんかん性スパズム(点頭発作)は、しゃっくりのように繰り返す、「ピクッ」とする一瞬の発作で、てんかん発作の正式な分類では、1981年:記載なし、2001年:全般発作(スパズムと記載)、2006年:全般発作, 焦点発作、2010年:未分類:おそらく焦点性, 全般性あるいは不明なもの、2017年:焦点性,全般性,不明の全てに記載、となっており歴史的にもその時代の知見によって変わってきていることがわかります。

また“ヒプスアリスミア”とは、大小のゆっくりとした波(徐波)と時間の経過とともに変化する多様な鋭い棘のような波(棘波)が入り混じった、一般に「混沌とした」脳波所見をいいます。最近では、その脳波異常の中に速い振動(oscillations)の嵐(storm)が存在し、その振動が神経細胞の電気的な発達を阻害(発達退行)することがわかってきています。

点頭てんかん(ウエスト症候群)の原因にはどのようなものがありますか?

様々な検査を利用することにより、約6割程度で原因が同定できます。原因が同定された患者さんのうち、約半数は出生前要因(生まれる前から備わっている体質など)であり、大脳皮質形成異常 (結節性硬化症など)や染色体異常症(ダウン症候群など)が該当します。次いで、出生時要因(分娩時に低酸素になった、など)で、低酸素性虚血性脳症、脳室周囲白質軟化症、周産期感染症などが該当します。さらに出生後要因が続き、急性脳炎・急性脳症後、脳腫瘍などが該当します。

原因を検索することは非常に大切です。原因の治療自体が必要な場合(例:脳腫瘍, 脳血管障害など)があります。次に、原因によって脳以外の臓器の健康管理・治療が必要な場合(例:結節性硬化症, ミトコンドリア病など)があります。最後に、原因の治療なしでは発作抑制・脳波改善が得られにくい場合(例:皮質形成異常, チャネル病など)があります。

点頭てんかん(ウエスト症候群)の検査にはどのようなものがありますか?

脳波検査は言うまでもなく重要で、診断や治療効果判定に使用します。約30分-1時間程度の短時間の場合もあれば、1泊2日など入院して行う長時間ビデオ脳波検査を行う場合があります。目的に応じて使い分けます。

次に脳の構造を調べる検査として、頭部CT・頭部MRIを行います。頭部CTでは、出血や石灰化を検出することができ、検査時間が短時間であることが利点ですが、検査時にわずかに放射線を利用する点が欠点です。一方、頭部MRIは、脳の構造を「脳のしわの形」まで詳細に見ることができ、検査時に放射線を使用しませんが、撮影時間が30分程度(もしくはそれ以上)必要とします。

脳の機能を見る検査としてSPECT・PETという検査をする場合があります。SPECT(脳血流)は、“脳の血流の分布”を映し出す検査です。発作のない時(発作間欠期)にはてんかん焦点は集積が低下します。発作をしている時(発作時)にはてんかん焦点は集積が上昇します。また発作時-発作間欠時の血流の差分を取ることで、より明瞭なてんかん焦点を見つけることができる場合があります。FDG-PETでは “脳のブドウ糖代謝の分布”を映し出す検査で、脳血流と同じようにてんかん焦点は集積が低下します。これらの検査によりMRIで異常がない場合でもてんかん焦点を同定できる場合があります。また、脳の機能を推測できたり、てんかん焦点をより確実にすることができるなどが期待できます。

その他、原因を同定するために、血液・尿検査、髄液検査、代謝検査、染色体検査や遺伝子検査を行う場合があります。

点頭てんかん(ウエスト症候群)はどのように治療しますか?

ウエスト症候群(点頭てんかん)の治療には、内科的治療(抗てんかん薬・ACTH治療・その他)食事治療(ケトン食治療)てんかん外科手術焦点切除術脳梁離断術迷走神経刺激療法など)の3つがあります。詳しくはそれぞれの項目を参考にしてください。また基礎疾患のある場合は、その基礎疾患に応じた専門的な治療を積極的に考慮する必要があります(例えば、結節性硬化症ならビガバトリン、皮質形成異常ならてんかん外科手術など)。

ウエスト症候群(点頭てんかん)で比較的よく使用する抗てんかん薬は、ビガバトリン、バルプロ酸、ゾニザミド, トピラマート、ベンゾジアゼピン系(ニトラゼパム, クロナゼパム, クロバザム)、ビタミンB6、ラモトリギン、レベチラセタムなどがあります。その他の薬剤を用いることもあります。抗てんかん薬の効果はどの薬剤も約10-50%程度と言われています。どの薬剤にも、薬疹や眠気など共通した副作用が生じる可能性がありますが、それぞれの薬に特有の副作用もあります。

ここでビガバトリン(サブリル🄬)について説明します。ビガバトリンは、点頭てんかんにのみ使用できる抗てんかん薬でその効果も比較的高いといわれています。しかし、他の抗てんかん薬にはない副作用に注意が必要です。それは、約1/3の患者さんで不可逆的な視野狭窄が起こるといわれています。視野狭窄の発現頻度は、内服期間の長さや累積内服量(内服量×内服期間)の多さに伴い高くなるといわれており、定期的な眼科検査が義務付けられています。また、薬の処方には患者さんの書面での同意が必要で、「サブリル処方登録システムに登録された登録医療機関において、登録された患者さんに対してのみ行う」という特別な流れにのる必要があります。

点頭てんかん(ウエスト症候群)は治りますか?

ウエスト症候群(点頭てんかん)の長期的な予後については、約1/3で発作が消失し、約1/3で稀な発作頻度まで改善、残りの1/3では月に何回か・日に何回か程度の発作が残るといわれています。

ウエスト症候群(点頭てんかん)からてんかんの種類が変化することがあり、約2割でLennox Gastaut症候群へと変化し、それ以外であ焦点性てんかんやその他の全般てんかんなどに変化すると言われています。

知能面では、約1/4で正常知能(境界知能含む)、約1/4で軽度の知的能力の遅れ、約半数が中等度から重度の知的能力の遅れを認めるといわれていますが、原因や治療により大きく変わると考えられています。

ウエスト症候群と診断され、サブリルを2年間服薬しています。長期服用による副作用は、視野狭窄以外にもありますか?

サブリル🄬の副作用で最も注意が必要なのは、質問にもある視野障害・視力障害です。内服期間や内服量によりさらに注意が必要になります。その他、比較的よくみられるものは、傾眠(うとうとが多い)、食欲低下です。

一方、興奮傾向(激越)や不眠などがみられる患者さんもおられますが、内服を初めてまもなくみられることが多いです。その他重い副作用としては、視野障害に加えて視神経の異常、てんかん重積状態(ミオクローヌス)、呼吸状態の悪化、頭部MRI異常、運動障害などがありますが、これらも内服初期に多く、頻度もまれです。

視野障害以外の長期服用の副作用に関するデータは少ないですが、他の抗てんかん薬に比べるとあまり多くないようです。West症候群(点頭てんかん)の治療に関しては、「West症候群(点頭てんかん)の治療にはどのようなものがありますか?」を参照してください。

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