本日の専門家ゲストは大阪市立総合医療センター小児神経内科、小児青年てんかん診療センターの九鬼先生です。今回は新しい薬であるブコラムについて詳しく聞いていきます。
新しいお薬「ブコラム」のお話を聞きました
妙佳 まず新薬ということなので、つい最近出たものというのは分かるんですが、いつ頃に使えるようになったんでしょうか?
九鬼 ブコラムはお薬の名前なんですけども、そのブコラムの成分の名前はミダゾラムという成分が入っています。このブコラムというのは元々ヨーロッパのほうではかなり前から使われていたお薬であって、日本でようやく使えるようになったのが2020年、去年の12月になります。ですので本当にできたてホヤホヤです。
妙佳 そうですよね。もっと前かな?と思っていたんですけど、本当にもう数カ月前ですね。
九鬼 数カ月前から日本でやっと使えるようになりました。でも実はヨーロッパなどの海外では実際に長い間使われてきた実績があるお薬になります。
妙佳 ヨーロッパだと何年間ぐらい使われてきたんですか?
九鬼 多分もう10年、20年という範囲だと思います。
妙佳 結構前からですね。日本で使えるようになってまだ数カ月前ですけれども、それは何か理由があるんですか?
九鬼 詳しい理由までは分からないんですけども、今までけいれんを病院内で止める手段であるお薬はいろいろあったわけですが、日本ではそれですらなかなか種類がなくて、ここ10年ぐらいでようやくいろんな薬が出てきて、やっと海外と足並みそろったというレベルになったのが現実です。
おうちで使えるようなお薬が今まではダイアップという座薬…お尻から入れる薬はずっと日本であったんですけれども、すぐ効くわけではなくて効くまでに少なくとも15分、30分以上かかってくる。その間に救急車で運ばれて病院に到着してという時間になってくるので、速効性が期待できない。
あと座薬はどうしてもお尻から入れないといけないので、外でけいれんが起こってしまっていざ処置となったらみんなの前でそういうことしないといけないので、やっぱり使い勝手も悪いということがあるという大きな流れがあったんです。
ブコラムがやっと日本に来て使えるようになったメリットとしたらその座薬よりは速く効くし、お口から飲むということでわざわざズボンとかを下ろしたりせずに処置できるというメリットがあることになります。
妙佳 副作用でちょっと呼吸機能が低下する、それは間違いないでしょうか?
九鬼 これについてはもちろん全員が起こるわけではないですけれども、ブコラムというお薬は全体的で見ると大体数%の方が呼吸が少し抑えられるというふうにいわれています。
ブコラムを使う時ためにお家の人ができること
妙佳 「自宅で使えるようになって良かった」と期待はたくさんあるんですけども、保護者の方がご家庭で1人で使うことは可能でしょうか?
九鬼 理屈上は可能というふうな答えにはなるんですけども、どうしても目の前で我が子にけいれんが起こっていて救急要請したりとかいろいろしないといけない中で、「呼吸大丈夫かな?」と思いながら処置するのは本当に大変なことだと思うんです。これを乗り越えるためには少なくとも何回か自分でシミュレーションをしてみてほしいです。
実際にお薬を使ってのシミュレーションは大変だと思うので、よく似た注射器とかを使って、例えばその中にジュース入れて子どもに「ちょっと横になって」みたいな感じで自分の中でシミュレーションして1、2、3みたいな感じでやるのを何回かやっておくとスムーズにいけるんじゃないかなと思っています。
妙佳 そういったやり方は何か講座などは行われているんですか?
九鬼 使い方で一番分かりやすいのは武田薬品という会社を「ブコラム 武田薬品 使い方」みたいな感じで検索したらすぐに出てきます。
薬を使った後に副作用が出るかどうかは大変心配されるところですけど、それについては正直なところ、例えば家で初めてそのお薬を使うとなると、こちらもお出しする時に「どうなるか分かりません」みたいな感じになってしまいます。
でもそのお薬を出されるということは今までに何回かブコラムのミダゾラムという成分を、例えば病院でどれぐらいの量を使ったとか、その使った時に呼吸が大丈夫だったかとか、けいれんが多くてブコラム使う使用機会が多い方は実際に家でどれぐらいの量だったらどんな状況だったのかという、今までのその実績を踏まえて「安全かな?」とか「これぐらいでいこうか」とか、そういうのにどんどんなっていくんだろうと思うんです。
ほとんどが生まれて初めて使う薬というわけではないパターンのほうが多いのではないかなとは思っています。
妙佳 前半のあーささんは「ブコラムを使う時には必ず救急車を呼んでおくように」というふうな先生のお話があったということですけども、それは間違いないでしょうか?
九鬼 そうですね。基本的にあの添付文書といってお薬の取扱説明書みたいなのがあるんですけれども、そこの記載としては「このお薬を使う場合はまずは救急搬送の手配を原則してください」というふうには書いてあります。
海外とかではもうすでに当たり前のように使われているという流れで、例えば家で使ってその後は速やかにけいれんがなくなって元気いっぱいとかだったら、わざわざ救急搬送されてないという患者さんも多くいると思うんですけど、まだ日本に来て間もないので基本的には最初は救急搬送を前提として使用されていったほうが安全だと思います。
今後はその実績を踏まえると大丈夫になっていくとは思いますけども、日本ではまだ本当に生まれたてというような感じなのかなというイメージの薬ですね。
妙佳 救急救命士の方とかはブコラムの認知度はまだまだ低い感じですかね?
九鬼 正直なところ、やっぱりまだ出たてというところがあって、長い間けいれんに対して、病院の前でできる治療はそのさっき言ったダイアップという座薬だけだったので、なかなか救急車の中でする処置という認識もなくて、実際病院に運ばれてきたらいろんな薬を点滴とかができるわけなので、この薬の認知度としたら、まだすごく広がっているわけでは決してなくて、ただすごく有用な治療であるのは間違いないので、これから僕たち含めてみんなで広めていかないといけない薬だなというふうには思います。
ブコラムのこれから期待できること
九鬼 あと1点、さっき言えなかったんですけど、今は難しいかもしれないけども、この薬が例えば救急車とかに将来配備されて救急隊の方が使えるような時代が来たら、例えば生まれて初めてけいれんして止まらない、でもなかなか病院にすぐに行けないという方が、救急車で処置ができて、そのまま救急車で搬送されてというのが一応の理想です。
それの臨床試験があって、けいれんが始まって薬を早く使えば使うほど予後が良くて、早くにけいれんは止まるし、重症にならずに済むという臨床研究があるので、できるだけ早く薬を使いたいけど、家から救急車、救急車から病院というところで、その薬が使えるのが元々は病院だけだったのが、もしかしたら将来、海外では実際はじまっていますけど、救急車に配備されると、初めてのけいれんの重積でも使ってあげられる子はドーンと増えるんじゃないかなというふうに、ちょっと妄想ですけど期待しています。
患者さんの力は本当に素晴らしくて、このブコラムという薬も実際はお医者さん側からどんどん国に働きかけてというよりは、ドラべ症候群の家族の会や、てんかんに関係するいろんな家族の会の皆さんの大きな力が第一というか、それがあってこそこういう発売になったという経緯がありますので、本当に一丸になってみんなで広めていくというお薬だというふうに思っています。
バレーボールでいうと、お家があって、救急車があって、病院があるので、レシーブ、トス、アタックみたいなそういう連続で子どもを守っていくような中で、今まではアタッカーだけが治療できたのが、実はレシーバーとかトスを上げるセッターもどんどん活躍できるというか、そういうお薬が出てきたなというイメージになっていますし、やっぱりてんかんの方はどの世代でも100人に1人いますので、もっとてんかんについてみんなが知ってもらえる、普通に気軽に「てんかん」という単語が出せるような時代が来たらいいなというふうに思っています。
妙佳 ありがとうございます。本日の専門家ゲストは大阪市立総合医療センター小児神経内科、小児青年てんかん診療センターの九鬼先生でした。ありがとうございました。
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