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質問:新型コロナウイルス感染症とてんかんの関係を教えてください!

こたえ

2020年に入って、COVID19(新型コロナウイルス感染症)が猛威をふるい、世界中の人の生命、生活に悪影響を与えています。わが国でも同じであり、特に基礎疾患があるお子さんをお持ちのご家族には、大変なご心労と思われます。てんかんがあるお子さんのご家族から、コロナウイルス感染症とてんかんについてご質問が多くみられましたので説明させていただきます。【まとめ】と、さらに詳しく知りたい方々向けに【もっと詳しく】として、専門的な内容を書いていますので、みなさんの必要に応じて、読み進めてください。

COVID19はまだまだ情報が十分ではなく、わかっていない事や医学的な判断がかわることもあります。情報には定期的に目を通していただき、新しい情報を得るようにしてください。なお、実際にお子さんやご自身に体調の不安があれば、このような情報を元に自己判断されるのではなく、帰国者・接触者相談センター等お近くの保健所の電話相談や、時には発熱外来を受診してください。

(ご不明な点、もっと知りたい点は、おしえて!ジョウくんまでご連絡ください。※ただし、お答えを個々にお送りするのは時間的な制約があり、説明文への加筆や修正となりますことをご了承ください。)

 

まとめ

1)概要
・病気の名前:COVID19(いわゆる新型コロナウイルス感染症のこと)
・ウイルスの名前:SARS-CoV2(いわゆる新型コロナウイルスの正式名称)
・症状:発熱、悪寒、咽頭痛、せき、疲労、嗅覚異常、味覚異常、嘔吐、下痢、進めば呼吸困難、呼吸不全
・伝播様式:飛沫感染、接触感染
・潜伏期間:1日~12.5日(ただし発症の2日前から人にうつす、また濃厚接触者は14日待機)
・致死率:日本で約4.2%(2020年7月時点)

2)新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000628620.pdf

3)帰国者・接触者相談センター等への連絡基準
・息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合
・重症化しやすい方で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合
・4日以上発熱などの感冒症状が続く場合など

4)濃厚接触者となる場合:(厚生労働省)
・必要な感染予防策をせずに手で触れること
・対面で互いに手を伸ばしたら届く距離(1m程度以内)で15分以上接触があった場合
・ただし、マスクやゴーグル(フェイスシールド)の有無、3密の状況で判断は変化
・最終的には帰国者・接触者相談センターが判断します
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q3-3

5)有効と思われる予防策(さらには、学校、職場などのマニュアルを参考にしてください)
・こまめな手指消毒
・ソーシャルディスタンスをたもつ
・3密回避する
・マスクやゴーグル・フェイスシールドの着用
・不要不急の外出や長距離の移動を避ける

こどもとCOVID19

・こどもは症状が軽く、重症化することはまれ
・こどもは感染による呼吸症状悪化よりも、COVID19関連健康被害の方が問題である

てんかんのある人とCOVID19

・てんかんのある人では、COVID19によるてんかんの病状悪化は少ないといわれている
・COVID19により、てんかん診療(検査体制、治療など)に一定の影響がでている
・てんかんのお子さんをもつ保護者アンケートから、COVID19の影響により発作が悪化し(約2割)、心理的な負担(約8割以上の項目あり)があることが分かった

 

【もっと詳しく】

COVID19について

COVID19とてんかん

・新型コロナウイルス(COVID19)流行によるてんかんのあるお子さんとご家族への影響調査の3つに分けて説明します。

 

COVID19について

コロナウイルスとは

コロナウイルスはもともと4種類で、発熱や咳などの感冒(かぜ、上気道炎)のウイルスです。ところが、SARS2002年から流行、重症急性呼吸器症候群、Severe acute respiratory syndromeの略)やMERS2012年から流行、中東呼吸器症候群、Middle East respiratory syndromeの略)といった致死率が高い2種類が出現(日本ではほとんど発症はない)しました。今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV2)は7種類目であり、今後も増える可能性があります。

新型コロナウイルス(COVID19)について

2019年12月、中華人民共和国の湖北省武漢市で肺炎患者の集団発生が報告されました。この新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染は世界に拡大し、日本国内では、116日に初めて患者が報告されました。原因のウイルスであるSARS-CoV2は一本鎖RNAウイルスであり、感染様式は飛沫感染、接触感染を基本と言われています。潜伏期間は1日から12.5日(多くは56日)です。感染症状として、初期は上気道感染症状で、無症状の患者さんも多くいると推定されております。味覚障害(味がしない)や嗅覚障害(においを感じない)などの神経症状の存在が言われており、これらを同時に認める他の疾患は多くないと言われており、非常に特徴的です。1週間程度経過して、急激に呼吸状態が悪化することがあり、約2割の患者さんで酸素吸入などを必要とします。さらに悪化すると、5%程度で人工呼吸器や人工心肺装置(ECMO:通称エクモ)が必要となります。死亡率は2020720日時点で日本の死亡率約3.9%で、世界的には低い値となっています。

こどもでのCOVID19の特徴について日本小児科学会が発表

2020年520日に日本小児科学会(日本の小児科医師の大部分が所属する学会)から「小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見の現状」が報告されました。これは、こどものCOVID19の臨床的特徴を、医師向けにまとめられたものになっております。20207月時点で、こどもの感染の殆どは家族内感染と言われています。学校や保育所におけるクラスターはないか、極めて稀とされています。こどもでは成人と比べて軽症で、死亡例も殆どないです。乳児(赤ちゃん)では発熱のみのこともあります。殆どのこどもの患者さんは経過観察・対症療法で十分といわれています。SARS-CoV-2は鼻咽頭よりも便中に長期間そして大量に排泄されます。血液検査では、 リンパ球減少が報告されています。胸部・CTでは、成人と同様にすりガラス様陰影や胸膜下病変がよく認められています。小児に関しては教育・保育・療育・医療福祉施設等の閉鎖などによるこどもの心身への影響が報告されています。例えば、学校閉鎖による、教育の機会減少、抑うつ状態や情緒障害、療育施設閉鎖による、医療的ケア児の病態の悪化などが生じています。また、乳幼児検診の機会が減ったために、母子ともに健康問題の早期発見・介入が困難になっている場合もあると推測します。自粛生活による親子ともにストレスが高まり、家庭内暴力や虐待のリスクが高まるなとの懸念もあります。こどもの場合は、感染による呼吸症状悪化よりも、COVID-19関連健康被害の方が問題でることが指摘されています。

COVID19とてんかん

COVID19によるてんかん診療へのインパクトー学会からの治療指針―

2020年430日に日本てんかん学会から「新型コロナウイルス感染症(COVID19)流行期におけるてんかん診療指針」が出されました。以下の項目について、てんかんを診療する医師へ向けに、CQClinical Question:クリクニカクエスチョン:臨床上の疑問)として項目立てて記載されています。

CQ1 てんかん患者は新型コロナウイルスに感染しやすいか

CQ2 新型コロナウイルス感染症はてんかんを悪化させるか

CQ3 新型コロナウイルス感染症の症状としててんかん発作がみられるか

CQ4 てんかん患者の定期外来受診はどうするか

CQ5 外来脳波検査の適応と実施はどうするか

CQ6 長時間ビデオ脳波モニタリング検査の適応と実施はどうするべきか

CQ7 救急科・ICUでの持続脳波モニタリング検査の適応と実施はどうするべきか

CQ8 点頭てんかんの診断と治療はどうするか

CQ9 抗てんかん薬との相互作用に注意すべき新型コロナウイルス感染症治療薬はなにか

CQ10 妊娠中のてんかん患者の注意点はなにか

CQ11 てんかん診療において精神・心理面ケアで必要なことはなにか

特にてんかんのある人が気になっている項目を取り上げてみます。

COVID19によるてんかんの病状悪化は少ない

「てんかんをもつというだけでは新型コロナウイルスに感染しやすいという根拠はない。感染した場合に重症化しやすいという根拠はない。しかし、てんかんの病因および併存症によって(免疫抑制を伴う治療中など)は感染および重症化リスクが増加することがある。」(CQ 1)、また「新型コロナウイルス感染症によるてんかんの悪化については十分なデータはない。」(CQ 2)と記載されています。現時点では、稀な状況をのぞくと、てんかんがあることで、「COVID19で肺炎が重症化しやすい」「感染によりてんかん発作が悪化する」ということはないようです。

COVID19により外来受診や脳波検査へ影響

定期外来受診については、「外来受診にともなう感染リスクを低減するために、受診頻度を減らすことを考慮する。電話再診・オンライン診療等の方法を可能であれば用いる。」(CQ 4)と記載されています。病院やクリニックによって診療体制や流行状況によって違うと思いますが、電話再診・オンライン診療は感染機会を減らす意味では有用であると思われます。外来脳波検査については、「脳波検査の必要性について各医療施設及び地域の感染に関する状況を踏まえて、各患者の脳波検査の適応を検討する。」(CQ 5)と記載されています。外来での脳波検査は、ある程度密閉環境で行う検査ですので、COVID19が流行していて、延期可能な場合(問診および身体所見から臨床判断が可能な場合など)は、COVID19が落ち着いてからでよいかもしれません。

COVID19により入院での長時間ビデオ脳波モニタリング検査の注意点

てんかんが難治に経過している場合や発作の頻度が1週間で複数回以上ある場合などでは、入院して長時間ビデオ脳波モニタリング検査を検討することになります。「長時間ビデオ脳波モニタリング検査の適応は、各医療施設の特徴およびその地域における流行状況をふまえて、各患者において十分に検討する。」(CQ 6)と記載されています。長時間ビデオ脳波モニタリング検査は、COVID治療中や濃厚接触による検査中・経過観察中などの場合は延期せざるを得ないと考えられますが、てんかん治療方針の決定に極めて重要な検査であるため、実施可能な状況になれば、十分なスタッフの確保と付添人の検討(感染の可能性がまずない人)をして行う必要があります。

COVID19による点頭てんかん診療への影響

てんかんの中でも、点頭てんかんの場合は少し、検討することが多いため、別項目となっております。「電話や情報通信機器を用いたオンライン診療によって行うのが望ましい。脳波は診断のために必須の検査であり、外来で施行することが望ましい。頭部・MRI・検査・CT検査は必要に応じて施行する。血圧測定・血液生化学検査等のための外来受診は最小限にとどめる。結節性硬化症に合併した点頭てんかんでは眼科との十分な診療協力体制が得られればVigabatrinの在宅投与を考慮する。結節性硬化症を合併しない点頭てんかんでは十分な感染対策下での入院によるACTH療法ないしPrednisoloneの在宅経口投与を考慮する。」(CQ 8)と記載されています。点頭てんかんは、できるだけ早くの確定診断、原因の特定、治療が必要なてんかんです。そのため、様々な検査が必要で、脳波検査は治療効果判定として繰り返し行うことが多いため、安定期の診療よりは受診頻度が増えてしまうことはやむを得ないことかもしれません。長時間ビデオ脳波モニタリング検査は通常入院で行われ、ACTH治療は少なくとも数週間以上の入院が必要です。ACTH治療自体で免疫力が低下するため、十分な感染対策が必要です。結節性硬化症に合併する点頭てんかんの場合は、Vigabatrin(ビガバトリン)という薬が、非常に有効ですので、他の薬よりも優先して使用される場合が多いです。しかし、目の副作用が起こりえるため、定期的な網膜電図検査が義務づけられています。

抗てんかん薬治療中にCOVID19になったら注意することがある

もし抗てんかん薬治療中に、COVID19になった場合はどうでしょうか?「酵素誘導薬(カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール、プリミドン)は一部の抗ウイルス薬と相互作用があり、抗ウイルス薬血中濃度を低下させることがあり注意を要する。アタザナビルによりベンゾジアゼピン系薬は濃度が上昇する。ファビピラビルは抗てんかん薬と相互作用がほとんどない。」(CQ 9)と記載されています。COVID19の治療薬についても、どんどん変わっていくことが予想されますので一概に言えませんが、現在飲んでいる抗てんかん薬の種類によって、COVID19の治療に影響することは知っておく必要があります。

オンライン診療・遠隔診療について

CQ4,5,8などで、オンサイン診療についての有用性と展望について記載されています。てんかん診療の分野では、今度オンライン診療の活躍が期待されています。救急受診や血液検査・脳波検査・画像検査などでは、病院受診が避けられませんが、問診、発作症状(ビデオ動画)の共有、てんかん診断、発作数の変化、副作用(眠気など)の確認など大部分については、オンライン診療で十分対応可能と考えられます。特に、発作動画の共有や発作数の変化に関しては、通常の対面診察によりも、NANACARAを用いたほうが、情報量が格段に多いことが推測されます。また、NANACARAでの情報の蓄積があれば、旅行先や出先で救急受診が必要になった場合でも、お子さんのてんかんに関する情報が、はじめて行く救急病院でも的確に伝達できます。NANACARAに関しては、おしらせなどで随時情報提供させていただきます。

新型コロナウイルス(COVID19)流行によるてんかんのあるお子さんとご家族への影響調査

(1) てんかん患者とその家族、およびてんかんの専門医で構成する一般社団法人SAChi(サチ)プロジェクト(登記準備中)と、nanacaraを開発・運営するノックオンザドア株式会社は、てんかんがあるお子さまのご家族205名のご協力を頂き、新型コロナウイルス感染症が与える診療、生活への影響調査を実施しました。レポート結果はこちらから

(2) さらに専門的な解析・医学統計処理※をした結果から
※てんかん発作への影響と保護者の心理的な負担に関して、各因子の影響をロジスティック回帰分析により多変量解析(尤度比を用いた変数増加法を使用)

実際にCOVID19による自粛生活で、2割の患者さんでてんかん発作が悪化

①抗てんかん薬を4剤以上内服している患者さん

②何らかの遠隔診療をすでに実施している、もしくは臨時で実施している患者さん

③感染が心配なので通院・外出・ディ・学童への通所を控えた患者さん

以上の3項目が、統計学的有意差をもって独立しててんかん発作悪化と関連しました。この結果からは、難治例で発作が悪化している、受診の抑制や自粛生活によるストレスなどが関係しているかもしれません。実施したい治療が先送りになったり、予期せぬ副作用が懸念され投薬変更が控えられたり、などが関係しているかもしれません。流行時に保育所や児童ディサービスが活躍していたことが、数多くのご家族にとって救われたとの声を聞きます。お子さんのストレス緩和のためにも、今後は積極的な分散登校などを考慮しても良いかもしれません。

新型コロナウイルス(COVID19)の流行後、あなた(家族)の心理的な負担

1)自分(ご家族)が感染してしまった場合、誰が子どもの世話をしてくれるのか分からず不安(83.9%)

①身体障がいがあること、②家庭背景として兄弟多い・片親のご家族、③感染が心配なので通院・外出・ディ・学童への通所を控えた患者さん、④必要な清潔資材(除菌用アルコール・マスクなど)が手に入らず困っている患者さん、⑤子どもや家族が常に家にいるため、仕事や家事に支障がある・食料品の買い物が不便、が該当しました。ご家族の誰かが感染した場合のお子さんの預け先のなさがあり、仮に預け先がみつかっても、お子さんを介した2次感染が懸念されることがあるのではと思います。これらは、当然の結果をいえるでしょう。

2)子どもが感染したら自分も付き添えるのか分からず不安(72.2%

①医療的ケアの必要な患者さん、②感染が心配なので通院・外出・ディ・学童への通所を控えた患者さん、③必要な清潔資材(除菌用アルコール・マスクなど)が手に入らず困っている患者さん、④子どもや家族が常に家にいるため、仕事や家事に支障がある・食料品の買い物が不便、が該当しました。医療的ケアが必要なお子さんは、お子さんに合わせたケアが必要になることが多く、入院した場合に付き添いがないと思わぬ病状の悪化を認める場合があります。特に、てんかんのあるこどもは、突然症状(てんかん発作)が起こるため、常時気の抜けない介助が必要になる場合が多いです。医療的ケア児の付き添いに関する指針が必要とおもわれます。付き添いで入院できる体制や付き添い者(検査陰性)の健康管理に関する指針なども必要になるでしょう。

3)救急受診がしにくくなるのではないかと不安(45.4%)

①抗てんかん薬を4剤以上内服している、②3年以上のてんかん診療をうけている、③医療的ケアの必要な患者さん、④何らかの遠隔診療をすでに実施している、もしくは臨時で実施している患者さん、⑤感染が心配なので通院・外出・ディ・学童への通所を控えた患者さん、が該当しました。てんかん治療に難渋している、また医療的ケアを必要としている患者さんほど、病状悪化の可能性が高いため救急受診ができるのかどうか心配が強いようです。COVID19にならないように、すでに何らかの遠隔医療を導入したうえで、さらに自粛生活を強いられている状況がうかがえます。かかりつけの病院でCOVID19が流行したときなどは、COVID19の院内感染拡大を防ぐために、救急外来診療を中止せざるを得ない場合があります。入院中の患者さんは様々ながん治療や難病治療のため入院しているので、COVID19感染が命取りになる可能性があります。てんかん患者さんは急に症状がでて、症状が長引いた場合(てんかん重積)は命に関わる状態になる可能性が否定できないため、「てんかんのあるこどもの救急受診に関する病院ごとの明確なアナウンス」が必要と思われます。

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